公益社団法人 全日本鍼灸学会 安全性委員会
鍼灸の安全対策
Safety Measures for Acupuncture and Moxibustion

 
 
 
 
 
 
Last update 2016-08-13

感染防止対策の基本


流水と石鹸による手洗い

実施時期
診療開始前だけでなく、診療の前後に行いましょう。
患者毎の実施が推奨されます。
目に見える汚れがある場合 ⇒流水と石鹸による手洗い+速乾性擦式手指消毒
目に見える汚れがない場合 ⇒速乾性擦式手指消毒

 

準備
爪は短く切ります。つけ爪は外しておきましょう。
時計や腕輪は外します。
袖は肘上までまくり手指と前腕を露出します。
手洗いの手順図を手洗い場に貼っておきましょう。

 

手順
1.流水で簡単に汚れを落とします。温水を使用しましょう。
適量の石鹸を手に取り十分に泡立てます。
2.手掌 →指間 →手背 →指先 →爪の周囲 →指 →手首 →前腕の順に30~60秒間かけて洗って行きます。
3.未洗浄部位に触れないように注意しながら流水で石鹸と汚れを十分に濯ぎます。
ペーパータオルで十分に水分を取り除きます。

 

備考/注意
温水は冷水より洗浄力が高いので、給湯器の使用が推奨されます。
爪先の内側は垢が溜まりやすく細菌の温床となります。また手洗いでは洗浄できません。爪を切ってから手を洗いましょう。
時計や腕輪は垢が付着し細菌の温床となります。時計や腕輪に付着した垢は、手洗い中に溶け出し手指を汚染します。
石鹸を十分に泡立てることで皮膚の皺の間にも薬液が届き洗浄力が増します。液体または泡状タイプの石鹸の使用が推奨されます。
爪の周囲や指の背側の洗い残しが多いので重点的に洗いましょう。
速乾性擦式手指消毒薬の薬効濃度が低下しないようペーパータオルを3枚以上使用して水分を十分に拭き取りましょう。
手洗いの手順図を見ながら練習しましょう。
パームスタンプ®や手洗いチェッカー®を用いて洗い残しを確認しましょう。

 

参考
世界保健機関(WHO)編. 医療における手指衛生ガイドライン. 2009.
米国疾病予防管理センター(CDC)編. 医療現場における手指衛生のためのガイドライン. 2002.


手指消毒

速乾性擦式手指消毒/ラビング法

実施時期
施術野の消毒前に行います。
刺鍼あるいは施灸の直前に行います。

 

準備
流水と石鹸による手洗いを行い、目に見える汚れを落としておきます。
速乾性擦式手指消毒薬の容器、特に手に触れるポンプ部分をアルコール綿(消毒綿)等で清拭しておきます。
手指消毒の手順図を手洗い場に貼っておきましょう。

 

手順
1.手掌に適量の消毒液(約3mL)を取ります。ポンプをフルプッシュすると約3mLの消毒液が吐出されます。
2.未洗浄部位に触れないように注意して手掌 →指先 →指間 →手背 →指全体 →手首の潤に薬液を擦り込んでいきます。
3.薬液が乾くまで擦り込みを繰り返します。

 

備考/注意
薬液の適量は手のサイズで異なりますが、夏場において少なくとも15秒間以上は擦り込める(乾燥しない)量が必要です。
消毒薬は消費期限までに使い切りましょう。
消毒時は不潔な部分に触れないように注意しましょう。
擦り込み終了後、手がしっとりと潤いがあれば成功です。そうでない場合は、消毒薬の量が少なかった可能性があります。

 

アルコール消毒綿の清拭による手指消毒/スワブ法

近年、アルコール消毒綿の清拭による手指皮膚の水分を著しく奪うため、手荒れ防止の観点から推奨されません。
刺鍼あるいは施灸直前の速乾性擦式手指消毒の励行が推奨されます。

 

参考
世界保健機関(WHO)編. 医療における手指衛生ガイドライン. 2009.
米国疾病予防管理センター(CDC)編. 医療現場における手指衛生のためのガイドライン. 2002.


施術野の消毒

実施時期
施術前後に行います。

 

刺鍼時の消毒
刺鍼前には、アルコール綿(消毒綿)で施術野(押手を含めた広範囲)を一方向性に清拭します。
清拭は2~3回繰り返します。
アルコールが揮発するまで(10~15秒程度)待って施術を開始します。
刺鍼後の消毒は、アルコール綿(消毒綿)で鍼体を包んで抜鍼し、その後、後揉法を兼ねて刺鍼部位のみを清拭します。

 

施灸時の消毒
アルコール綿(消毒綿)で施術野を一方向性に清拭します。広範囲の清拭は必要ありません。
複数回の清拭は必要ありません。
施灸後の消毒は、灰を除去した後、アルコール綿(消毒綿)で施灸部位を軽く圧迫する程度にとどめます。

 

備考/注意
同じ部位を複数回清拭しないようにしましょう。
消毒効果は消毒液の量に依存しますので、アルコール綿(消毒綿)を絞りすぎないようにしましょう。
消毒効果は清拭圧も重要です。適度な圧をかけて清拭しましょう。
消毒効果の発現は清拭してから10秒程度かかります。
一度、施術野を広く清拭しておいてから、施術直前に再度、施術部位を清拭するとより効果的です。

 

消毒薬の種類
アルコール系消毒薬が推奨されます。
アルコール系消毒薬には、消毒用エタノールまたはイソプロパノール、イソプロパノール添加消毒用エタノール、香料添加消毒用エタノールなどがあります。どのタイプでも施術野の消毒には問題ありませんが、濃度は70~80%のものを使用しましょう。
アルコール系消毒薬にアレルギーを示す場合は、低水準消毒薬のグルコン酸塩クロルヘキシジンや第4級アンモニウム化合物(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム)などを使用します。

 

参考
日本病院薬剤師会編. 消毒薬の使用指針. 第3版. 東京: 薬事日報社; 1999.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版; 2007.
(社)全日本鍼灸学会研究部安全性委員会編. 臨床で知っておきたい鍼灸安全の知識. 初版. 神奈川: 医道の日本社; 2009.


使用する鍼

毫鍼
滅菌済みの単回使用毫鍼(JIS T 9301:2005)の使用が推奨されます。
滅菌のいかんに関わらず再使用はしてはいけません。

 

円皮鍼・皮内鍼
単回使用毫鍼(JIS T 9301:2005)に適合(準拠)した滅菌済みの円皮鍼あるいは皮内鍼の使用が推奨されます。
原則、貼付後24時間以内で廃棄します。

 

鍉鍼(ていしん)・ローラー鍼・梅花鍼などの再使用を前提とした鍼
洗浄後、滅菌バックに入れて高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)にて滅菌を行います。
滅菌後は滅菌バックに入れたまま、紫外線保管庫か清潔な保管庫に保存します。
滅菌と保管は「器具の衛生」を参照して下さい。

 

小児鍼
ディスポーザブル(使い捨て)の小児鍼の使用が推奨されます。
再使用鍼の場合は、洗浄後、滅菌バックに入れて高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)にて滅菌を行います。
滅菌後は滅菌バックに入れたまま、紫外線保管庫か清潔な保管庫に保存します。
滅菌と保管は「器具の衛生」を参照して下さい。


器具の衛生/滅菌・保管

手順 
1.回収 →2.分別 →3.付着物の水洗 →4.酵素系洗剤による浸漬と洗浄(一次洗浄) →5.すすぎ →6.卓上型器具洗浄器または超音波洗浄器による洗浄(二次洗浄) →7.すすぎ →8.乾燥 →9.点検 →11.包装 →12.滅菌 →13.保管 *すべての工程は感染防止のためにゴム手袋を着用して行いましょう。

 

酵素系洗剤による浸漬・洗浄(一次洗浄)
1.蛋白質・脂質等の分解酵素を含むものを使用します。アルコールなどの消毒薬は蛋白汚れを凝固させてしまうため、一次洗浄には適しません。例.酵素系浸漬洗浄剤(パワークイック®、SARAYA)
2.酵素系洗剤を温水に溶かして使用します。10分間以上浸漬します。
3.器具を完全に浸漬します。
4.浸漬後、器具を流水で十分にすすいで薬剤を落として下さい。温水の温度、浸漬時間は商品により異なりますので説明書を参照して下さい。

 

卓上型器具洗浄器(ウオッシャーディスインフェクター)
洗浄剤と熱水とで器具を洗浄・消毒します。*機器の操作マニュアルに従ってください。

 

超音波洗浄器
1.超音波洗浄器用洗浄剤を温水に溶かして使用します。超音波の振動と洗浄剤の有効成分で汚れ(主にタンパク質)を除去します。
例. パワークイック(超音波洗浄器用洗浄剤, SARAYA)
2.器具を完全に浸漬し10~15分間超音波洗浄を行います。
3.洗浄後、器具を流水で十分にすすいで薬剤を落として下さい。
*洗浄液は洗浄毎に交換することが推奨されます。最低1日1回は交換しましょう。温水の温度、洗浄時間は商品により異なりますので機器および洗浄剤の説明書を参照して下さい。

 

包装・滅菌
小さな器具は滅菌バッグに入れて滅菌します。
器具に合った大きさの滅菌バックを用い、ヒートシーラーで密閉します。
滅菌バッグには、滅菌が適切に行われたかを確認できる化学インジケータが印字されているものが推奨されます。


環境衛生

一般の清拭
金属、プラスチック、塩化ビニル製品の清拭にはアルコール系消毒薬が適しています。
ただし、芽胞形成菌(クロストリジウムディフィシル、枯草菌など)やノロウイルスに汚染された場所には次亜塩素酸ナトリウム(ハイター®等)を使用するのがよいでしょう。

 

血液が付着したものの清拭
手袋を装着し、次亜塩素酸ナトリウム(ハイター®等)をしみ込ませたペーパータオルで清拭して下さい。
B型肝炎・C型肝炎はアルコールでは完全に死滅しない場合がありますので注意が必要です。


飛沫感染防止策

防止策
飛沫粒子は、症状のある患者のクシャミや咳により空気中にまき散らされますが、浮遊し続けることはなく特別の空調や換気は必要ありませんので、通常はマスク着用を含む咳エチケットで対応します。
飛沫粒子は接触感染の原因ともなりますので、その際には手指消毒や清拭消毒が必要となります。

 

咳エチケット
飛沫感染の防止策の一つであり、症状のある患者の感染性呼吸器分泌物の発生源の封じ込めを目的とします。インフルエンザなどの飛沫感染による感染症の流行時に実施します。咳エチケットの具体的内容は以下です。
症状のある人々(患者・施術者)にはクシャミや咳するとき、口および鼻を覆うように指導する。
口および鼻を覆う場合はティッシュを用い、使用後、手を触れなくて済む容器に廃棄する。
気道分泌物で手が汚れたあとには手指衛生を徹底する。
患者が耐えられれば外科用マスクをするか空間的分離(1m以上の距離)を維持する。市販のマスクでも代用可能です。

 

参考
矢野邦夫 監訳. 隔離予防策のためのCDCガイドライン: 医療現場における感染性微生物の伝播の予防 2007. <http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/cdc/all02.pdf>
小林寛伊 編. 新版 消毒と滅菌のガイドライン. 第1版. 東京:へるす出版;2012.


血液感染防止策

ワクチン接種/B型肝炎のみ
現在は医療関係者に限らず、一般人もワクチン接種をすることが推奨されています。
医療機関では、患者や患者の血液・体液に接する可能性のある場合、すべての医療関係者はワクチンを接種する必要があります。
ワクチン接種後、HBs抗体が陰性になった場合は追加接種が必要です。

 

抜鍼時の対応
抜鍼時の鍼体には少量とはいえ血液が付着しており、B型肝炎等の血液感染の恐れがあるため、抜鍼時にアルコール綿(消毒綿)で鍼体を包み込むようにして抜去します。

 

血液接触時の対応 
アルコールではB型あるいはC型肝炎ウイルスを完全に死滅することができない場合がありますので、速やかに血液を流水と石鹸で十分に洗い流して下さい。

 

誤刺時の対応
ただちに内科を受診して適切な処置を受けて下さい。
可能であれば患者も一緒に受診し、肝炎などに感染していないか検査してもらうとよいでしょう。


感染性廃棄物

感染性廃棄物
感染性廃棄物とは「医療関係機関等から生じ、人が感染し、若しくは感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物」のことです。
具体的には、血液、体液、排泄物が付着した廃棄物に加え、鋭利なもの(未使用を含む)も感染性廃棄物として扱います。

 

 鍼灸における感染性廃棄物
使用済あるいは未使用の鍼(毫鍼、円皮鍼、皮内鍼など)、血液や体液あるいは排泄物の付着した消毒綿、ペーパータオル、リネン類等が感染性廃棄物に該当します。
血液や体液あるいは排泄物が付着していないものは非感染性廃棄物として扱います。

 

感染性廃棄物の廃棄
感染性廃棄物は、医療廃棄物容器(感染性廃棄物容器)に入れ、都道府県知事あるいは政令都市長の認可を得た業者に運搬・廃棄処理を委託しましょう。
感染性廃棄物、特に使用済みの毫鍼は、鍼刺し事故等を防止するために移し替えを行わず、直接、医療廃棄物容器に廃棄することが望まれます。

 

毫鍼の廃棄
プラスチック製の医療廃棄物容器には、0.5L~4.0Lの卓上の注射針用小型容器から20L~70Lの大型容器まであります。
実際に使用する医療廃棄物容器については事前に委託業者に問い合わせて下さい。

 

血液や体液あるいは排泄物が付着した消毒綿やガーゼの廃棄
消毒綿やカーゼなど鋭利でない感染性廃棄物は、プラスチック製あるいは安価な段ボール製の医療廃棄物容器に廃棄することができます。実際に使用する医療廃棄物容器については事前に委託業者に問い合わせて下さい。

 

参考
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和四十六年九月二十三日政令第三百号)最終改正:平成二六年三月二六日政令第八〇号
環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部. 廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル. 2012.
尾家重治 編. ここが知りたい!消毒・滅菌・感染防止のQ&A. 第1版. 東京:照林社;2011.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会 編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版;2007.


Q&Aの最終更新日 :  2016-08-12