公益社団法人 全日本鍼灸学会 安全性委員会
鍼灸の安全対策
Safety Measures for Acupuncture and Moxibustion

 
 
 
 
 
 
Last update 2016-08-13

有害事象Q&A


総論

質問.医療事故とは何ですか?
回答.医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故で、以下の場合を含む事故です。なお、医療事故は医療従事者の過誤、過失の有無を問いません。
 1.死亡、生命の危険、病状の悪化等の身体的被害及び苦痛、不安等の精神的被害が生じた場合
 2.患者が廊下で転倒し、負傷した事例のように、医療行為とは直接関係しない場合
 3.患者についてだけでなく、注射針の誤刺のように、医療従事者に被害が生じた場合

 

参考/厚生省. リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成委員会(2000):リスクマネージメントマニュアル作成指針.

 

質問.有害事象とは何ですか?
回答.全日本鍼灸学会 安全性委員会では、医薬品の臨床試験で用いられる定義を参考として、鍼灸における有害事象を「因果関係を問わず治療中または治療後に発生した好ましくない医学的事象」と定義しています。

 

参考
International conference on harmonisation of technical reqirements for registration of pharmaceuticals for human use: Clinical safety data management: Definitions and standards for expedited reporting E2A. ICH Guideline, 1994:1-4.
医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令. 最終改正平成24年12月28日厚生労働省令第161号. 2012.

 

質問.有害事象はどのように区分されますか?
回答.有害事象は因果関係等から以下の4つに区分されます。
 1.副作用(有害反応):意図せず生じた好ましくない生体反応
 2.過誤:治療者あるいは治療院の過失、無知、故意などによって発生した事象
 3.不可抗力による事故:天災など
 4.治療や施術者の行為とは因果関係がない事象

 

参考/山下仁. 東洋医学基礎講座 現代臨床鍼灸学概論4. 鍼灸の有害事象と安全性. 理療. 2010;40(2): 9-14.

 

質問.副作用と過誤の違いについて教えて下さい?
回答.副作用は、鍼灸治療が正しく行われても一定の頻度で発生してしまうような生体反応であるため、基本的に発生をゼロにすることは困難ですが、刺激量の調節など工夫によって軽減することは可能です。一方、過誤は、教育や防止策の向上によって理論的には回避可能です。ただし、他の医療領域と同様に、様々な因子が関与することによって発生してしまうことがあります。 

 

質問.鍼灸の有害事象はどのように分類されますか?
回答.全日本鍼灸学会 安全性委員会では国内外の学術雑誌に掲載された鍼灸に関連する有害事象を定期的に全日本鍼灸学会雑誌上で総説(レビュー)しています。レビューでは、有害事象を以下のように分類しています。
鍼に関連する有害事象
 1.感染症 
 2.臓器損傷(気胸・血管傷害を含む)
 3.折鍼(埋没鍼を含む)・伏鍼・異物
 4.神経損傷(神経傷害)
 5.皮膚疾患
 6.その他
 灸に関連する有害事象
 1.熱傷
 2.癌化
 3.その他
*伏鍼とは体内に残留した鍼、異物とは臓器に迷入した伏鍼を核として生じた体内異物のことです。伏鍼の原因としては、折鍼や現在禁止されている埋没鍼(意図的な折鍼)が挙げられます。

 

参考
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子, 江川雅人, 楳田高士. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.
山下仁, 楳田高士, 形井 秀一, 石崎 直人, 江川 雅人, 箕輪政博, 畠山 博式, 古屋 英治, 半田美香子, 宮本俊和. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-194.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士, 宮本俊和, 石崎直人, 形井秀一. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
※1998年以前のデータは分野別に2001年発行雑誌に記載されています。

 

質問.鍼灸による副作用にはどうようなものがありますか?
回答.鍼灸の副作用は全身性と局所性に大別されます
 1.全身性:疲労感、倦怠感、眠気、主訴の悪化、めまい、ふらつき、気分不良、嘔気、頭痛など
 2.局所性:微量の出血、刺鍼時痛、皮下出血、施術後の刺鍼部痛、皮下出血など
Yamashitaらの調査では、鍼治療において頻繁に遭遇する副作用のほとんどは軽症であることが確認されています。ただし、この調査は外来患者を対象とした調査データであるため、重篤な疾患で入院している患者さんや手術直後などの場合に起きる副作用の種類と頻度については不明です。健常者を対象としているため入院患者など重篤な疾患のある患者に対する副作用については不明です。

 

参考/Yamashita H, Tsukayama H, Hori N, Kimura T, Tanno Y. Incidence of adverse reactions associated with acupuncture. J Altern Complement Med. 2000; 6(4): 345-50.

 

質問.有害事象に関する文献(著書・論文・報告書)を読むときの注意点は何ですか?
回答.以下の3つの理由により、単純に文献の数が多い少ないという視点で議論するのは不適当です。
 1.因果関係が不明である
 2.総数が不明である
 3.出版バイアスが存在する
鍼灸の有害事象の増減を単純に文献数で判断することは適切ではありません。
有害事象とは「因果関係を問わず治療中または治療後に発生した好ましくない医学的事象」と定義されています。このため、収集される文献においては、必ずしも因果関係が証明されているわけではありません。
また、著者の多くは医師であり、施術の状況(使用鍼・施術部位)や使用器具設備などの詳細な記載がない場合がほとんどで、文献の記載だけでは因果関係の判断は困難です。
文献の総説(レビュー)での数字はあくまで学術論文として報告された数であり氷山の一角です。実際の臨床現場で起こっている総数や頻度は不明であり、報告されていない事例が相当数あることも予想されます。
珍しい症例や重篤な症例が学術雑誌に掲載されやすいという出版バイアスが論文数に影響しています。逆にありふれた軽症の事例で論文化する意味がないと判断されれば数字として表れません。

 

質問.「鍼灸による有害事象」と「鍼灸に関連した有害事象」の違いは何でしょうか?
回答.有害事象と鍼灸の因果関係が必ずしも明確でなく、他の因子の関与も否定できない場合には「鍼灸に関連した有害事象」あるいは「鍼灸治療後に生じた有害事象」と記載することが適切と考えられます。有害事象関連の論文を読む場合、あるいは執筆する場合には注意が必要です。


調査・総説

質問.鍼灸による有害事象はどのくらいの頻度で生じますか?
回答.ドイツで行なわれた大規模な前向き調査(文献1,2,3)から、標準的な鍼灸治療によって深刻な有害事象が発生する頻度は非常に低いということが証明されています。
また、特記すべき有害事象の発生頻度は、日本式鍼灸治療で0.12%(文献4)、イギリス現代医学系鍼灸治療で0.14%(文献5)、イギリス中医学系鍼灸治療で0.13%(文献6)と報告されています。

 

参考
Witt CM, Pach D, Brinkhaus B, et al. Safety of acupuncture: results of a prospective observational study with 229,230 patients and introduction of a medical information and consent form. Forsch Komplementmed. 2009; 16(2): 91-7.
Melchart D, Weidenhammer W, Streng A, et al. Prospective investigation of adverse effects of acupuncture in 97 733 patients.Arch Intern Med. 2004;164(1):104-5.
Endres HG, Molsberger A, Lungenhausen M, et al. An internal standard for verifying the accuracy of serious adverse event reporting: the example of an acupuncture study of 190,924 patients. Eur J Med Res. 2004;9(12):545-51.
Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, et al. Adverse events related to acupuncture. JAMA. 1998;280(18):1563-4.
White A, Hayhoe S, Hart A, et al. Adverse events following acupuncture: prospective survey of 32 000 consultations with doctors and physiotherapists. BMJ. 2001; 323(7311): 485-6.
MacPherson H, Thomas K, Walters S, et al. The York acupuncture safety study: prospective survey of 34 000 treatments by traditional acupuncturists.BMJ. 2001; 323(7311): 486-7.

 

質問.前向き調査とはどのようなものですか?
回答.前向き研究とは、新たに生じる事象について将来にわたって追跡調査する研究方法で、事前に調査結果に関わる因子を把握・調整することができることから、過去にさかのぼって調査する研究(後向き研究)よりも信憑性が高いとされています。

 

質問.近年の国内における鍼灸に関連した有害事象について教えて下さい。
回答.2007年から2011年までに発表された鍼灸に関連する有害事象論文は39文献39症例収集されました。内訳は、感染症7件、臓器損傷11件、折鍼・伏鍼・異物8件、神経損傷6件、皮膚疾患1件、灸による事象4件、その他2件です。
過去の報告と比較して、有害事象全体に占める感染、臓器損傷、折鍼・伏鍼・異物の割合は高くなっていました。詳細および過去の研究部安全性委員会による文献の総説(レビュー)については参考文献を参照してください。

 

参考
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子, 江川雅人, 楳田高士. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.
山下仁, 楳田高士, 形井 秀一, 石崎 直人, 江川 雅人, 箕輪政博, 畠山 博式, 古屋 英治, 半田美香子, 宮本俊和. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士, 宮本俊和, 石崎直人, 形井秀一. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
*1998年以前のデータは分野別に2001年発行雑誌に記載されています。


鍼による有害事象

質問.鍼に関連する有害事象にはどのようなものがありますか?
回答.鍼に関連する有害事象は、感染症、臓器損傷、折鍼・伏鍼・異物、神経損傷、皮膚疾患に分類されます。詳細は以下の項目をご覧下さい。


感染症

質問.感染症とは何ですか?
回答.細菌やウイルスなどの微生物がヒトの体内に侵入して、臓器や組織あるいは細胞の中で分裂増殖し、その結果として惹起される疾病です。
鍼治療後に感染症を発症した症例が報告されています。因果関係が証明されていないものが多いですが、細菌・ウイルスの感染経路のひとつとして鍼治療が疑われています。鍼治療後に発生したと報告されている感染症は、大きく細菌感染症と血液媒介ウイルス感染症に分類されます。

 

質問.細菌感染症ではどのようなものが報告されていますか?
回答.膿瘍や関節炎などが報告されています。
膿瘍とは、組織、臓器に起こった化膿性炎の結果、限局性に好中球を主とした滲出物の蓄積が起こった状態です。肩甲骨周囲、傍脊柱筋、腰部筋、頸髄や腰髄の硬膜外、後腹膜部や腎臓など様々な部位で報告されています。
関節炎は関節に炎症が起こり、関節の腫脹、疼痛、局所熱感、運動機能障害といった症状が現れるものです。化膿性肩関節炎、化膿性脊椎炎、腰部敗血症性関節炎、腰椎化膿性椎間関節炎などが報告されています。感染症の原因菌はブドウ球菌属やレンサ球菌属などが多いです。

 

質問.血液媒介ウイルス感染症はどのようなものが報告されていますか?
回答.鍼治療と血液媒介ウイルス感染症の因果関係を証明した症例報告論文はありません。現在、鍼灸師の多くは使い捨ての鍼を使用しており、そもそもウイルスに汚染された鍼が患者と接触する可能性はありません。
また、鍼を再使用する場合も、国内で標準的な施術とされているCDCガイドラインに基づく鍼の洗浄・滅菌を行っていれば感染の可能性はありません。しかし、家族歴、生活歴、輸血歴がなく、治療歴から感染経路のひとつとして鍼治療を疑う症例報告論文が少数ですが報告されています。
国内で2000年以降、鍼治療後に発生したB型肝炎の症例報告論文は2文献2症例です。これら2例は、以前の血液検査ではHBs抗原陰性であったものが肝炎を発症しており、発症前に鍼治療を受けていた経緯から鍼治療を感染経路として疑っているものです。
どちらも因果関係を詳細に分析した記載はないため、必ずしも鍼治療が原因かは不明です。
なお、鍼治療後にC型肝炎やエイズを発症したという症例報告論文および明確に因果関係が証明された報告は国内ではありません。

 

質問.感染症と鍼治療の因果関係はどのように報告されていますか?
回答.多くの症例は時間的に感染症発症の前に鍼治療を受けたという事実だけで、因果関係を証明する記載はありません。
感染経路として、日常生活において患者が接触・経験する様々な事象全てを完全に否定することは困難です。このため、既に感染していた可能性や既に感染していた部位に治療をした可能性を否定すること、逆に鍼治療が原因と証明することも難しいといった状況があります。また、B型肝炎は30~150日の、C型肝炎は30~50日の潜伏期を経て発症するため感染ルートの証明がより困難です。このため多くの報告者は因果関係があることを示唆しながらも明言を避け、「鍼治療後に発症し」と記述する傾向があります。
また、論文著者のほとんどは医師であり、鍼施術の状況や器具設備などの衛生環境について詳細な記載がなく、文献の記載だけでは判断が困難です。
耳鍼による局所の化膿など、刺鍼した部位と同一箇所に感染症が発生した場合や、同一治療院での多発などの場合は因果関係が強いと推察されますが、鍼治療後に感染症を発症したという事実のみで因果関係を推察するための詳細な記載がない論文も多く存在します。

 

質問.鍼治療が原因で感染症になる可能性はあるのですか?
回答.ドイツの大規模調査などの報告では、標準的な鍼治療では重篤な有害事象が発生する可能性は非常に低いというデータが示されています。現在の日本においては、鍼灸師の養成も大学による高等教育が進み、医療としての学問、技術、倫理、安全性における教育は充実し、鍼の単回使用、手指消毒・院内環境・シャーレなど器具の適切な消毒、滅菌などCDCガイドラインに基づく標準的な衛生操作が教育カリキュラムに含まれています。このため、鍼を感染経路として感染症が発症する可能性はほとんどありませんが、不衛生な鍼治療により感染症が発症した可能性を完全に否定することもできません。
安全性委員会では、学術大会におけるワークショップの開催、Webサイトの運営、学術雑誌への安全情報の提供、各種業団体での講演など、安全性に関する啓発活動を行い安心で安全な鍼灸医療の構築に努めています。

 

質問.鍼治療を感染経路としてB型肝炎・C型肝炎・エイズに感染することはありますか?
回答.鍼灸医療安全ガイドラインに基づく標準的な施術を行えば感染する可能性はありません。
標準的な施術とは、鍼の単回使用、手指消毒・院内環境・シャーレなど器具の適切な消毒・滅菌などです。これらは、鍼灸師養成機関における教育カリキュラムに含まれています。感染の成立には肝炎ウイルス・エイズウイルスが患者の体内に入り増殖することが必要です。
そもそも、鍼を単回使用に限定すれば、肝炎やヒト免疫不全ウイルスに汚染された鍼が患者と接触する可能性はありません。また、治療時の微小出血による周囲へのウイルス汚染拡散に関してもリネン類の管理・ディスポシーツ・消毒・滅菌・手洗いを適切に行えば2次汚染を防ぐことができます。

 

質問.最近の感染症のデータを教えて下さい?
回答.2007年から2011年の文献総説(レビュー)では細菌感染症6件・ウイルス感染症1件の論文が収集されました。
脊髄硬膜外や腰筋などの膿瘍が7件中5件と多く報告されています。原因菌は黄色ブドウ球菌、腸球菌など常在細菌が報告されています。B型肝炎に関しては、それまでの血液検査でHBs抗原陰性であり、発症1か月前に鍼治療を受けていた経緯から鍼治療を感染ルートとして疑っているものです。感染予防のためにはCDCガイドラインに基づく標準予防策を順守することが大切です。

 

参考
CDC: Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities, 2008.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版; 2007.
楳田高士, 山下仁, 江川雅人ら. 鍼灸の安全性に関する和文献(6) 鍼治療による感染に関する報告について. 全日鍼灸会誌. 2001;51(1):111-21.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士ら. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井 秀一ら. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子ら. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.


臓器損傷

質問.臓器損傷とは何ですか?
回答.刺鍼や伏鍼が原因となって内臓や血管を損傷したものです。
刺鍼による損傷、意図しない折鍼による伏鍼が原因となるもの、埋没鍼の3つに分類されます。 
※伏鍼=折鍼により体内に残存した鍼
※埋没鍼=故意に折鍼して体内に残存させた伏鍼 1976年に日本鍼灸師会が当時の厚生省に禁止通達を要望し、鍼灸医療安全ガイドラインにおいても厳禁となっています。

 

質問.臓器損傷には具体的にどのようなものがありますか?
回答.刺鍼による損傷では、気胸や出血(後腹膜・腎臓など)、血腫(腸腰筋など)、動脈瘤(膝窩動脈など)があります。また、伏鍼が重要臓器(肺・腎臓・尿管・後腹膜腔内・膀胱など)および重要血管(腹部大動脈、肺動脈など)に迷入し各部を損傷した症例が報告されています。
刺鍼による出血・動脈瘤・血腫が報告されています。局所解剖を理解し、不必要な深刺や粗暴な手技を避けることが重要です。また、伏鍼の重要臓器・重要血管への迷入が報告されています。これらの多くは摘出手術により症状軽快・治癒しています。伏鍼が発生した場合は、直ちに専門医への受診を勧めるべきです。

 

質問.最近の臓器損傷のデータを教えて下さい?
回答.2007年から2011年の文献総説(レビュー)では、気胸が9文献(両側気胸が3文献)、気胸を除く臓器損傷は血友病患者における腸腰筋血腫が1文献、動脈穿孔による膝窩動脈瘤が1文献収集されました。
気胸では、頸肩背部および肩井穴への刺鍼が原因とされる文献が3件報告されています。また、血友病患者や動脈硬化が疑われる高齢者など出血傾向がみられる患者への施術は、そのリスクを勘案して施術をする必要があります。これら臓器損傷の予防には、重要な臓器・血管・神経の局所解剖及び安全深度を理解し不必要な深刺を控えることが大切です。

 

質問.鍼治療後に発症した気胸は安静にしていれば治りますか?
回答.鍼治療後に発症したとされる気胸は、安静による経過観察のみで治癒したという軽度の症例も多いです。しかし、両側性気胸、緊張性気胸、血気胸など重篤な事例も報告されており注意が必要です。
1980年以降少なくとも両側性気胸9文献、緊張性気胸3文献、血気胸3文献が報告されています。
両側気胸は両肺の萎縮により重度の呼吸障害を起こす可能性があります。緊張性気胸は肺の穴が一方通行弁となり患側胸腔内圧が異常上昇し,健側肺や心臓脈管系を圧迫するものです。放置すると血圧低下,閉塞性ショックなどの重篤な状態を招きます。血気胸は胸壁と肺との癒着などが切れ出血した状態です。
どれも早期に適切な対応をとらないと重篤な症状を引き起こしかねないものです。重篤な例は非常に稀ですが、臨床において気胸の発生が疑われた場合はすぐに病院での精査を勧めるべきです。

 

参考
山田伸之, 江川雅人, 楳田高士ら. 全日本鍼灸学会研究部安全性委員会. 鍼灸の安全性に関する和文献(3) 鍼治療による気胸に関する文献. 全日鍼灸会誌. 2000;50(4):705-12.
山下仁, 形井秀一. 鍼治療と両側性気胸. 全日本鍼灸学会雑誌. 2004;54(2):142-8.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士ら. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~損傷2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井秀一ら. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子ら. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.
古瀬暢達, 山下仁. 鍼治療の安全性向上に関する文献的検討 気胸. 医道の日本. 2014;73(9):118-25.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版; 2007.


折鍼・伏鍼・異物

質問.伏鍼・異物とは何ですか?
回答.伏鍼とは折鍼により体内に残存した鍼のことです。異物とは体内に存在する「正常な細胞」ではないもの、つまり、伏鍼や伏鍼を核とした結石などのことです。
鍼灸臨床に関する有害事象においては、伏鍼と異物はほぼ同じものを意味します。医学論文では、体内に残存しているものが何か不明な場合や伏鍼を核として結石の形成などある場合に異物という記載がみられます。研究部安全性委員会の有害事象の分類では、伏鍼による神経損傷は「神経損傷」に、伏鍼による臓器損傷は「臓器損傷」に分類し、神経損傷や臓器損傷に分類されない伏鍼のみ「伏鍼」としてまとめています。また、伏鍼は「意図しない折鍼」が原因のものと、故意に折鍼して体内に残存させる「埋没鍼」に分けて分類しています。
*埋没鍼は、1976年に日本鍼灸師会が当時の厚生省に禁止通達を要望し、鍼灸医療安全ガイドラインにおいても厳禁となっています。

 

質問.最近の伏鍼・異物のデータを教えて下さい?
回答.2007年から2011年の文献総説(レビュー)では、折鍼による伏鍼が8文献、臓器内異物は脾臓1文献・膀胱1文献、その他頸部・小脳・延髄・後腹膜の伏鍼が報告されています。
折鍼によって体内に残存した鍼は結合組織に包まれその場にとどまる場合もありますが、迷入し脾臓や膀胱で結石化したり、脊髄内に迷入し脊髄損傷きたした例が報告されています。また、直後は無症状でも鍼が迷入し20・30年後に症状を発症した事例も報告されています。折鍼が患者の体内に残存した場合には、現在伏鍼による症状がなかったとしても迷入による神経損傷や臓器損傷のリスクと摘出手術のリスクを勘案する必要があります。摘出手術の適否を専門医に相談することが大切です。

 

参考
宮本俊和, 濱田淳, 山下仁ら. 鍼灸の安全性に関する和文献(5) 折鍼・埋没鍼. 全日鍼灸会誌. 2001;51(1):98-110.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士ら. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~損傷2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井秀一ら. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子ら. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版; 2007.


神経損傷

質問.神経損傷とは何ですか?
回答.神経を損傷し、その支配領域に痛み・しびれ・感覚障害などを起こしたものです。
刺鍼による神経損傷により痛み・しびれ・感覚障害を生じた症例が報告されています。研究部安全性委員会では、意図しない折鍼が原因の神経損傷、埋没鍼が原因の神経損傷、刺鍼による神経損傷の3つに分類しています。

 

質問.神経損傷には具体的にどのようなものがありますか?
回答.頸部、腰部、下肢、殿部、上肢の伏鍼が原因と思われる神経損傷が報告されています。また、刺鍼による損傷では、クモ膜下出血、硬膜部血腫、後頭神経痛などが報告されています。
特に上部頸椎部での神経損傷例が多く報告されています。同部位への深刺は神経損傷のリスクがあることに注意が必要です。

 

質問.最近の神経損傷のデータを教えて下さい。
回答.2007年から2011年の文献総説(レビュー)では、伏鍼が原因の神経損傷が3文献(頸部・殿部・腰部脊柱管内)、埋没鍼が原因の神経損傷が1文献、頸部への灸頭鍼後の右下肢冷感・右半身温度覚障害が1文献、風府穴への治療後の頭蓋内くも膜下出血が1文献収集されました。
頸部での深刺が原因による感覚障害やクモ膜下出血の事例が報告されています。頸部への深刺は後頭骨環椎間・頸椎椎弓間・椎間孔から鍼が進入し、延髄・脊髄を傷害する危険性があります。この部の安全深度を十分理解し施術することが重要です。
*埋没鍼は、1976年に日本鍼灸師会が当時の厚生省に禁止通達を要望しており、鍼灸医療安全ガイドラインにおいても厳禁となっています。

 

参考
江川雅人, 山田伸之, 楳田高士ら. 全日本鍼灸学会研究部安全性委員会. 針灸の安全性に関する和文献(2) 神経傷害に関する報告. 全日鍼灸会誌. 2000;50(4):697-704.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士ら. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~損傷2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井 秀一ら. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子ら. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.
古瀬暢達, 山下仁. 鍼治療により生じた神経傷害例の文献レビュー. 医道の日本. 2013;72(6):138-46.
尾崎昭弘, 坂本歩, 鍼灸安全性委員会編. 鍼灸医療安全ガイドライン. 初版. 東京: 医歯薬出版; 2007.


皮膚疾患

質問.鍼による皮膚疾患には具体的にどのようなものがありますか?
回答.鍼治療の後に生じた局所性銀皮症・金属アレルギーなどが報告されています。
局所性銀皮症は銀の沈着によって顔面・頸部・手背などの露出部に特異な色調(灰紫青色)の色素斑を生ずる疾患です。刺鍼部と病変部が一致し、銀を含有する鍼の埋没が原因と思われる症例が報告されています。また、金属アレルギーでは、刺鍼部と一致した部位に紅斑や水疱が形成された例が報告されています。

 

質問.最新の皮膚疾患のデータを教えて下さい?
回答.2007年から2011年の文献総説(レビュー)では、20年前の埋没鍼が原因とみられる局所性銀皮症が1文献報告されています。
局所性銀皮症は銀の沈着によって顔面・頸部・手背などの露出部に特異な色調(灰紫青色)の色素斑を生ずる疾患です。

 

質問.皮膚疾患の原因は何ですか?
回答.銀鍼に含まれる銀や亜鉛あるいはステンレス鍼に含まれるクロムおよびニッケルが原因ではないかと推測している論文があります。
局所性銀皮症の多くは銀鍼の埋没が原因であり、埋没鍼を行わないことによりその多くは発生の防止が可能です。しかし、鍼治療は身体の内外に直接金属を接触させる治療法であるため、金属アレルギーの疑いのある患者への施術には注意が必要です。万が一、刺鍼部に一致した皮膚病変を認めたときは、鍼治療を中断して直ちに患者に専門医の受診を勧めるべきです。

 

参考
山下仁, 宮本俊和, 楳田高士, 江川雅人, 谷万喜子, 鍋田理恵, 濱田淳, 山田伸之, 形井秀一. 全日本鍼灸学会安全性委員会. 鍼灸の安全性に関する和文献(9) 皮膚科領域における鍼の有害事象. 全日鍼灸会誌. 2001;51(2):201-6.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士, 宮本俊和, 石崎直人, 形井秀一. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~損傷2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井 秀一, 石崎 直人, 江川 雅人, 箕輪政博, 畠山 博式, 古屋 英治, 半田美香子, 宮本俊和. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子, 江川雅人, 楳田高士. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.


灸による有害事象

質問.灸に関連する有害事象にはどのようなものがありますか?
回答.灸に関連する有害事象は、熱傷、癌化、その他に分類されます。

 

質問.灸による有害事象には具体的にどのようなものがありますか?
回答.熱傷、潰瘍、化膿、水疱性類天疱瘡、灸痕の癌化(皮膚の悪性腫瘍)などが報告されています。
水疱性類天疱瘡とは、掻痒を伴う浮腫性紅斑や滲出性紅斑と緊満性水疱からなる自己免疫性水疱症です。灸刺激が誘因となったと指摘されています。また、第3度熱傷に至るような強刺激の直接灸(焦灼灸など)でかなりの反復施灸を行った場合に、灸痕が癌化した症例が報告されています。灸痕が治りにくく、びらんを生じた場合は、施灸の刺激量や継続の是非を再考する必要があります。また、免疫力が低下した糖尿病患者やステロイドを大量に服用している患者、あるいは感覚障害(特に温度覚の障害)などへの透熱灸は避けるべきです。

 

質問.最新の灸による有害事象データを教えて下さい?
回答.2007年から2011年の文献の総説(レビュー)では、熱傷・下腿皮膚壊死・有棘細胞癌・顆粒球肉腫の4文献報告されています。
施術時の熱量、局所への長期かつ定期的な第3度熱傷に至るような強刺激の直接灸(焦灼灸など)による灸痕の癌化、易感染性患者の灸治療後の感染症発生リスクに注意する必要があります。

 

参考
山下仁, 江川雅人, 宮本俊和ら. 全日本鍼灸学会安全性委員会. 鍼灸の安全性に関する和文献(4) 灸に関する有害事象. 全日鍼灸会誌. 2000;50(4):713-8.
山下仁, 江川雅人, 楳田高士ら. 国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~損傷2002年)及び鍼治療における感染制御に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2004;54(1):55-64.
山下仁, 楳田高士, 形井秀一ら. より安全な鍼灸臨床のためのアイデア(2) 有害事象報告論文(2003-2006)および指サック・グローブ装着に関する議論. 全日鍼灸会誌. 2008;58(2):179-94.
古瀬暢達, 山下仁, 増山祥子ら. 鍼灸安全性関連文献レビュー2007~2011年. 全日鍼灸会誌. 2013;63(2):100-14.


Q&Aの最終更新日 :  2016-08-12